「世紀の空売り」はマイケル・ルイスの最高傑作


世紀の空売り

金融危機を予測して大もうけしたトレーダー達の話。デビュー作のライアーズポーカーは金融業界の実情を、実際に優秀なトレーダーだった著者が赤裸々に語る本だった。今回の本は現代版「ライアーズポーカー」といったところ。本当に面白い。

ルイスの本は、「ブラインド・サイド」、「ニューニューシング」なども傑作だけど、やっぱり金融業界の事を書かせれば元本職だけあって凄い。

■変人ばっかの登場人物

この本に出てくる人達は変人ばっかり。幼い頃から義眼でひたすら内向的な性格の人とか、人の神経を逆なでするのが趣味みたいな人とか。そのどれもが、サブプライム関連の金融商品が暴落するのを予想し、自分は間違っていないという信念をつらぬいて売り抜ける。

■暴落するのがわかっても、それで儲けるのは難しい

例えば、サブプライム関連商品の詐欺具合とか、こんな事を続けてたらいつか崩壊するのがわかったとしても、それを利用して儲けるのは意外と難しい。まず、いつ崩壊するかのタイミングは分からない。

それまで、空売りするということは簡単に言うとその日がくるまで損をし続ける金融商品を持ち続けないといけない。精神的にもつらいし、なにより豊富な資金力が必要。ヘッジファンドを運営してるなら顧客へのプレッシャーもある。

顧客は儲かっている時はなにも言ってこないけど、損失を出している時はマネージャーへの圧力が凄い。本書の主人公の一人も、サブプライム関連商品が暴落するのを信じて空売りしてたけど、途中で顧客から訴訟まで起こされそうになったりしている。

■サブプライム関連商品の空売りも思ったより難しい

CDSという金融商品を利用して主人公達はサブプライム関連商品を空売りしたわけですが、これが当初はなかなか取得できない。まず、市場が崩壊した時に生き残ってそうな大会社じゃないと空売りしても意味ない。

そうなると、ゴールドマンサックスとか大手銀行から買うしかないわけだけど、大口顧客じゃないとなかなか相手してくれない。いかにCDS関連商品を手に入れるかという駆け引きも面白い。

■市場は効率的ではないかもしれない

株式投資の教科書「ウォール街のランダムウォーカー」では株式市場は効率的だから儲けようとしてもムダだと書いてある。ただ、今回の話は債券市場。債券市場は株式市場より規制が緩く、詐欺同然のサブプライム関連商品が普通に売られ続けて、株式市場より世間の監視もなかった。

この結果、本書の主人公達は大もうけすることができたんだけど、人間が作るものに完璧なものはないっていう証明かもしれない。自分は株式投資も債券投資もやる知識もないし、やる気もさらさらないけれど、いつの世の中も抜け道というものはあるもんだなとしみじみと思った。