「ネットバカ」は今年読んだ本でベスト


ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること
今年読んだ中で、今のところ一番よかった本!今までの持っていた考えを揺さぶられた。タイトルも本の見た目も非常にしょぼくて、出版社に売る気はあるのかと問いただしたいけれど、中身は最高に濃い。

著者の「クラウド化する世界」はかなりよかったのでブログをチェックしてみたら、このブログもこれまた面白かった。「ネットバカ」の原題は「the shallows」なんですが、この本が発売されるまでずっと楽しみにして、英語版が出てほんの数ヶ月で訳本が出た。このスピード感は日本の出版社素晴らしい。

■道具が人間の脳にもたらす変化

グーグルなどで簡単に情報が取り出せるようになり、それによって失われてしまった人間の機能がこの本の主題。面白いのは、ネットだけでなく、今までの人類史において道具の発達がいかに人間の考え方や考える能力に影響してきたかを細かく検証している点。

例えば、時計の登場によって人間は今までより遙かに効率的に動くようになり、それと同時に時間にとらわれずに集中する能力も衰退してしまった。こういった、便利な道具が登場する時に生じる、見過ごされがちなトレードオフの関係を本書では詳細に検証しています。

「時計」、「本」、「インターネット」など、画期的に便利な道具の登場によって、人類の失われた能力がここまで説得力ある形で説明している本はなかったんじゃないかと。

■ネット世界におけるマルチタスクに慣れると注意散漫症候群になる?

現在のIT社会では、目の前の事への集中を邪魔するものであふれている。例えば、勉強していてもメールの返信が気になったり、携帯電話が鳴ったり、調べ物をネットで検索するとついついクリックしてしまうバナー広告や文字広告がわんさかある。さらには、twitterというリアルタイムに更新されるメディアも日本では大流行しています。

こうしたマルチタスクで作業することに慣れていると、それらをすべて遮断していても、ひとつの事に集中する能力は著しく衰えていると本書では指摘されています。自分は朝6時ぐらいに起きて、12時まで携帯も切って勉強に集中できる環境を作っているけど、結構注意散漫になっているのはこれが原因なんだろうか。

とにかく、効率的に速く仕事をこなすにはマルチタスクが欠かせない世の中。こういう時代だからこそ、いかに一つのことに集中する環境を確保できるかをまったく違う角度から再認識できます。この本に書いてあることは、単純にひとつのことに集中しましょうっていう簡単なことじゃなくて、いかにそういう環境で人間の脳みそが変化していったかを書いてあるのがすごくいい。

■グーグルやtwitterがある世界で暗記教育は時間の無駄という考えは本当か?

「グーグルで検索できる時代に暗記は時間のムダ。暗記はネットにさせて、人間にしかできないクリエイティブな事柄に頭のリソースを使うべき」という考えが現在では主流です。

例えば、twitterでフォロー数がかなり多い孫さんは「twitterで疑問を書くと、世界中に人々からアドバイスが瞬時にもらえる。右脳と左脳に加えて、第三の脳ができたみたいだ。」と言っていた。

自分も、答えが明確な事柄だとすぐに検索して調べるようにしている。それが一番速くて効率的だから。この本では、疑問が出てから、答えに至るまでのプロセスがかつてないほど省略されたネット社会において、人間の失われた能力について検証している。

その中には、ネット社会では無駄と考えられている暗記をしないことによって、脳内の重要なシナプスが弱まって、結果的にクリエイティブなアイデアを作り出す能力にも影響するようなことが書かれています。

このあたりの内容は、本当に目から鱗だった。最近はプログラミングでWEBサービスを作るのに夢中になっているわけですが、数学嫌いな自分にとってプログラミングする時に使う脳みそは今まで経験したことのない部分を使っている実感がリアルに体験できている。

プログラミングには一つ一つの細かいロジックを分解して、モデルとビューとコントローラに分けるMVCモデルというフレームワークがある。これを組み合わせを考えている時、普段の生活では使わない脳みそをフル活動させている気がするし、そういう物事を抽象化する能力は他の事柄にも絶対役に立つと思う。

なんでもそうだけど、答えが一気に出ると、それまでの過程がすっ飛ばされるので考えることをしなくなるというのはわかりやすい。

■でも、便利な道具を使わないと取り残されるし。。

ここが本書のキモだと思う。いくらネットを使うと注意散漫症候群になってしまうといっても、ネットなしの生活は不便すぎる。ビジネスでも、マルチタスクしないとライバルに差をつけられる場面は多々あるはず。

著者のニコラスカー先生も、本書執筆の時は山小屋に篭もったけど、書き終えた後にyoutubeや音楽サービスを使った時、この便利さからは離れられないと感じたみたいです。好む、好まざるに関係なく、時代の波には逆らうことはできない。

とりあえず、道具で便利になることにより、失われるものがあるとしっかり認識するのは重要だとして、集中するための環境作りも大事。便利な道具によって失う部分に注目することが、いろいろなヒントになりそうだなあと思ったしだいでありました。