【書評】迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか


拷問読書 拷問読書今週の一冊、累計121冊目。

かなり期待して読んだけれど期待を裏切らないおもしろさだった。原題は”The Survival of The Sickest”。読みやすくておもしろい。

進化とは可能な限り優れた遺伝子を残していくものなのに、なぜ病気の遺伝子が受け継がれていくのか?そもそも、なぜ人間は病気になるのか?この疑問に対して、進化医学の専門家であるシャロン・モアレムがおもしろおかしく説明していきます。

人間が病気になるのはどうしてなのか?それは、長い目で見れば自分に毒である薬を人間が使う理由と似ている。後からの副作用があるけれど、その薬を飲まなければ明日死んでしまうから。

例えば、糖尿病の遺伝子は氷河期にたいする人類の進化に関係すると書いている。寒冷化において、体内の液体が凍ると細胞が傷つけられて非常に危険になる。それを防ぐには体液が凍りにくいようにする必要がある。

純粋な水は0度で凍るけれど、糖分を多く含む水が凍る温度はもっと低い。つまり、体液をできるだけ凍らせないようにするため糖分を溜め込む遺伝子を持つ人間が生き残り、その影響で糖尿病遺伝子が受け継がれていくという説。

病気の遺伝子が受け継がれてきたのには理由があり、人類が生存に適した進化を選択した結果である、というのがこの本のスタンス。

さらにおもしろいのが冷凍保存の話。未来の科学力で復活することを期待して、死語に体を冷凍保存するサービスが現在でもある。人間の臓器は冷凍保存しても数時間で使用できなくなるので、臓器移植はいつも時間との戦いになる。

こういった人類の苦労を横目に、自分の体を完全に冷凍保存状態にできるカエルがいる。冬眠状態では心臓も完全に停止し、目も死んだ状態と変わらない。その状態から必要な時期に自然と息を吹き返すことができるのだとか。

この本を読んで思うのが、世の中のいろいろな不思議な現象も、ひもといていくとなにかしらの理由があるのだなということ。特に、理由がわからない現象ほど答えに近づいた時はおもしろいですな。

ちなみに、この本が読みやすくおもしろくなっている理由は、プロのジャーナリストが文章を書いているというところ。よい学者がよいライターであるのはまれなので、こういう形式でどんどん難しい研究も本にしてほしい。

この本の書評では、shorebirdというページが一番よかった。この本のおもしろさも指摘しながら、進化医学の最新研究から遅れているといった部分もバシバシ指摘しています。